仏教美術の中心をなす説話美術を取り上げ、仏教図像学の基礎的方法を習得する。
釈迦の生涯の重要なシーンを描いた仏伝図や、釈迦の前世の物語にもとづく前生図(ジャータカ図)などの説話美術は、インドをはじめとするアジア各地の仏教美術の中心的な主題である。インドにおいては、釈迦を象徴的に表した初期の仏教美術以来、中世の密教美術にいたるまで、数多くの作品が作られてきた。サーンチー、バールフットなどの仏塔装飾、西北インドのガンダーラの浮彫図などは特に有名である。インドの説話美術は、さまざまなルートを通じて、アジア各地へと広まった。なかでも、中央アジアのいわゆるシルクロードを経て中国、そして日本へと伝えられた流れは、われわれにもなじみ深い。このほかにも東南アジアの国々や、チベットやネパールなどのヒマラヤの国々においても、それぞれの地域で独自の図像へと展開させた。
この授業では、仏教の説話美術の中から特定の主題を選定し、それを表現した作品の解読を行う。インド、中国、中央アジア、日本などの諸地域から作例を網羅的に収集し、図像内容や表現方法の違いなどを明らかにすることで、それぞれの地域の説話美術の特質を解明する。あわせて、典拠となる文献を精読し、仏教文献学の読解の技術も身につけたい。出席者の発表を中心に授業を進める。