学術論文の書き方

1. 論文の構成

(1)一般に論文は序論、本論、結論によって構成されます。

(2)序論(序、はじめに、緒言・・・)では論文で取り上げる問題が何であるのか、その背景、先行研究などを明らかにします。本論で取り上げる論点をあげて、論文全体の見通しを示すこともあります。

(3)本論は文字どおり論文の中核部分にあたります。問題設定から結論を導き出すために必要十分な論点を設定し、論理的な順序でそれぞれの問題を解明します。したがって、論点に応じて複数の章で構成されることが一般的です。

(4)結論(結、おわりに、結語・・・)では、この論文を執筆したことによって何が明らかになったかを、簡潔かつ明瞭に示します。場合によっては、十分な考察を深めることのできなかった問題や、ここで導き出された結論から派生する問題などについても述べます。あたりまえのことですが、本文で述べてきたことと無関係のことを書いてはいけません。

(5)論文のはじめには表紙(タイトル・ページ)、目次を、論文の末尾には略号表(必要な場合のみ)、参考文献を付します。資料や情報の収集に際して特定の人物や機関の協力を得た場合、謝辞や付記も末尾に記します。

(6)論文の見出しには章と節を用いるのが一般的です。章の中に複数の節が含まれます。節の内部をさらに細分化するときは「項」(第一項など)を用いることができますが、(一)(二)のように数字のみで示す方法が一般的です。論文全体が著しく大きい場合や、翻訳やテキストなど性格の異なる部分があるときは、章の上に「部」を立てる場合もあります(例 第一部 研究編、第二部 翻訳編)。
例)

第一章 観音菩薩の研究

第一節 インドにおける観音信仰

(一) 観音信仰の起源
(二) 大乗仏教と観音信仰
   ・・・・・・・・

第二節 中国における観音信仰
   ・・・・・・・・

第二章 文殊菩薩の研究
   ・・・・・・・・

結論

*実際にはそれぞれの項目の後にページ数を加えてください 

(7)横書きの論文の場合、つぎのような方法もあります。ただし1.1.2.3.5のようなあまり細かい枝番は混乱を招きます。
例) 

1. はじめに

2. 観音菩薩の研究

2.1 インドにおける観音信仰

2.1.1 観音信仰の起源

2.1.2 大乗仏教と観音信仰
   ・・・・・・・・

2.2 中国における観音信仰
   ・・・・・・・・

3. 文殊菩薩の研究
  ・・・・・・・・

4. おわりに

*実際にはそれぞれの項目の後にページ数を加えてください 

2. 原稿用紙の使い方

(1)一マスに一字が原則です。マル、テンなどの句読点やカッコなどの符号にも一マスをとります。ただし、横書きの場合、アルファベットやアラビア数字は一マスに二文字入れることが一般的です。また句読点やカッコの受け(」など)は行頭にはおかず、行末の文字と同じマスに入れるか、行末のマスのすぐ横に書きます。

(2)章などの見出しは行頭より二マス程度あけます。見出しと本文の間は空白行を一行入れた方が、読みやすくなります。

(3)段落のはじめは一マスあけます。ただし、一段落のみで構成される引用文ではあける必要はありません。

(4)引用文は各行とも二字ずつ下げて(二マスずつあけて)書きます。

(5)縦書き、横書きの別に気をつける必要があります。とくに数字は縦書きの場合は漢数字、横書きの場合はアラビア数字を用いるのが一般的です。ただし、熟語や成句の中に含まれる数字(例 四聖諦、八正道、四面楚歌など)は横書きでも漢数字です。縦書きの漢数字の十、百、千などの位取りの言葉は、必要ではない限り、入れません(例 昭和五十六年ではなく昭和五六年、二十世紀と二〇世紀はいずれも可)。ただし、この場合も特定の仏教用語などについては省いてはいけません(たとえば十二支縁起、五位七十五法)。

(6)欧文(英語、サンスクリット、チベット語など)が文中にあらわれる場合、活字体で丁寧に書かなければなりません。本文が縦書きの場合であっても、その部分のみは横書きにします。また欧文が長文にわたる場合は、タイプで打つか、あるいはタイプやワープロで別の用紙に印字したものを貼り付けます。サンスクリットの場合、ダイアクリティカル・マーク(アルファベットに加えられる横線や下点などの記号)を付け忘れていないか気を付けましょう。チベット語をローマ字で表記する場合は、どの方式に従っているかに注意しなければなりません。

(7)翻訳の場合、訳者が補った語は[ ]の中に、語句の説明や原語を示す場合は( )の中に入れます。

3. 論文を書くときの注意

(1)論点が明確になった段階で全体の章立てを決め、目次を作成します。そして、それぞれの論点に応じて、各章におおよその分量を割り振ります。見通しのないまま、論文を書き始め、制限枚数に至ったところで終了するというのは、もっとも悪い論文の書き方です。

(2)ひとつの章や節の内部は、段落(パラグラフ)が積み重ねられてできます。今書いている段落で、何を述べようとしているのか十分自覚しながら書き進めなければなりません。ある程度文章が続いたので段落を変えるという漠然とした方法では、よい文章は書けません。

(3)一般に文章は短い方が読みやすい文となります。「・・・であり、」「・・・であるが、」などの言葉を繰り返して文章を続けていくと冗長な悪文になる傾向があります。逆説の意味のない接続の「・・・が、」を避けるだけでも、格段に文章は読みやすくなります。次項で述べるような問題も、簡潔な文章にすればある程度避けられます。

(4)主語と述語が正しく呼応しているか、気を付けて書かなければなりません。また「おそらく・・・であろう」や「なぜなら・・・だからである」などの係り結びについても注意します。誤字脱字がないように細心の注意を払うことはいうまでもありません。そのためには自分自身で何度も読み返すとともに、友人などと読み合わせるのもよい方法です。

(5)語句はできるだけ平易なものを用いるようにつとめます。仏教用語などは伝統的なものを用いるべきですが、自分がその内容を十分理解しているか注意しなければなりません。難解な語句を用いた方が高尚な論文に見えるというのは、誤った考えです。また自分勝手に新しい言葉を発明したりしてはいけません。さらに俗語や流行語、必要以上にくだけた言葉などは避けるよう気を付けましょう。つねに読者の側に立って明確に執筆するという態度が重要です。

(6)現在ではつぎのような語はひらがなで書く方が一般的です。
 例)すなわち(即ち) また(又、亦) さらに(更に) ただし(但し) 
  もしくは(若しくは) いずれ(何れ) いかに(如何に) ・・まで(迄)
  もっとも(尤も) しばしば(屡々) したがって(従って) まとめる(纏める)

(7)どこからどこまでが自分の文章で、どこが他の研究者の考えであるかを明確にしながら書きます。他人の考えや文章を引用する場合は、典拠を注などで明記しなければなりません(4の注の書き方参照)。短い引用は「 」に入れ、長い引用は2マス下げて書きます。

(8)原稿用紙に手書きで執筆するときは、清書に必要な時間を計算に入れておく必要があります。清書はやむを得ない場合を除き、自分自身で行うべきです。また下書きの草稿も原稿用紙に書きましょう。

(9)図や表がある場合、図1、図2あるいは表1、表2などの通し番号と、説明の語句(キャプション)を付けます。これらを本文に組み込むか、本文の末尾などにまとめるかは、量や大きさにしたがって判断します。他の文献などからの複写である場合は、その出典を明記しなければなりません。

4. 注の書き方

(1)注(註)は以下のような場合に付します。

(a) 他の文献に本文で言及したり、引用や要約をしたときに出典を明記する場合
(b) 本文の内容にさらにくわしい説明が必要であるが、それを本文に入れると論文の流れに支障をきたす場合
(c) 直接、論旨に関係しないが、本文から派生する問題を指摘しておく場合
(d) 翻訳の原文や原語を示す場合

(2)注は論文末や各章末におきます。論文を通して(1)(2)等を順に付けていきますが、各章ごとに(1)からはじめてもかまいません。

(3)典拠を示す場合、文献の書誌学的情報を過不足なくあげなければなりません(くわしくは5の参考文献の項参照)。この場合、最後にマル(欧文であればピリオド)を忘れないようにします。
例)これについて中村氏は「○○○○」と述べている(1)。・・・
   注
  (1) 中村元『インド思想史』岩波書店、1968、p. 123。

(4)ページ番号を示す場合、単一のページであればp. の後に、複数であればpp. の後にそれぞれ該当するページ数を書きます(例 p. 123, pp. 12-22)。この場合のp はつねに小文字です。縦書きの場合、一二三頁のように漢数字を用いてもかまいませんが、その場合、発行年も漢数字に統一します。

(5)同じ文献を何度も注であげる場合、文献のデータは初出のところであげれば、二回目以降は省略して、中村前掲書、pp. 12-22。のように記します。初出と二回目以降のあいだに相当の開きがあり、初出を探すことが困難な場合、初出の注番号を加え、注(1)中村前掲書、pp. 12-22。のようにするとよいでしょう。欧文文献の場合、ibid.あるいはop. cit.という決まった用語があります。いずれもラテン語を起源とする言葉なので、イタリック体にします。ただし最近ではあまり使用せず、著者名、タイトル(あるいは発行年)、ページ数のみを表記する方が一般的です。

(6)論文末尾に参考文献をあげる場合、注では著者の姓、発行年、ページ数のみをあげる方式もあります(例 中村 1968、p. 123)。一人の著者が同一年に複数の著作がある場合、参考文献のリストにおいて1968a、1968bのように区別します。

(7)原典を引用するときは、孫引き、つまり他の研究者が引用したものを再利用することは避けましょう。すでに他の研究者が引用していても、必ず原典に直接あたり、さらにその前後や校注などにも目を通し、自分自身の理解をふまえた上で引用します。

(8)必要以上に注を付けると、かえって論文の質を落とす場合もあります。また本文に比べて注の方が長いというようなアンバランスな付け方も問題です(ただし翻訳の訳注はこれには該当しません)。注の形式や内容については、各分野で定評のある文献にしたがうとよいでしょう。

5. 参考文献

(1)論文の本文や注で言及した文献は、「参考文献」(あるいは引用文献、参照文献など、英文であればBibliography, Reference, Works citedなど)として論文末尾にまとめて示します。

(2)文献のデータは単行本と論文で異なります。

(a) 和文の単行本の場合、著者、タイトル(『 』に入れる)、発行所、発行年をあげます。
例) 中村元『インド思想史』岩波書店、1968。
 翻訳の場合は訳者名をタイトルのあとに補います。著者ではなく編者の場合、編纂者をはじめにあげて、「編」の語を加えます。
例) 上村勝彦・宮本啓一編『インドの夢・インドの愛』 春秋社、1994。

(b)和文の論文の場合、著者、論文名、論題(「 」に入れる)、掲載誌(『 』に入れる)、巻数(あるいは号数)、発行年、該当ページをあげます。
例) 佐和隆研「密教における白描図像の歴史」『仏教芸術』70号、1969、pp. 1-23。
 また論文集などの形で単行本で出版されている場合、著者、論文名、論題(「 」に入れる)、掲載書(『 』に入れる)、発行所、発行年、該当ページをあげます。
例)井狩彌介「ヴェーダ祭式の思考と世界観」『岩波講座東洋思想7 インド思想3』岩波書 店、1989、pp. 23-38。

(c)欧文の文献もこれらに準じますが、単行本の場合、出版社のある都市名もあげます。文献や雑誌のタイトル(和文で『 』で示す部分)はイタリック体にします。タイプライターやワープロがイタリック体を印字できない場合、アンダーラインを付けます。以下にいくつかの例をあげます。
単行本の場合
Tucci, G., The Theory and Practice of the Mandala, Rider & Company, London, 1961.
雑誌論文の場合
Turner, V., Sacrifice as Quintessential Process: Prophylaxis or Abandonment, History of Religions, Vol. 16, No. 3, 1976, pp. 189-215.
論文集の場合
Blyth-Hill, V., The Conservation of Thankas. In P. Pal. ed. On the Path to Void: Buddhist Art of the Tibetan Realm, Marg Publications, Mumbai, 1997, pp. 270-281.
 なお欧文のこれらのデータは必ずタイプライターやプリンターで印字(あるいは印字したものを貼り付け)するようにして下さい。

(3)文献を掲載する順序は、和文であれば著者の五十音順、欧文であれば著者のアルファベット順が一般的です。もし、和文と欧文の文献をあわせてリストにする場合は、アルファベット順が適当でしょう。同一著者に複数の文献がある場合、発行年順にあげます。

(4)注において著者名、発行年、ページ数のみをあげる方法をとった場合、参考文献のリストは著者名のつぎに発行年をあげると、該当する文献を探すときに便利です。
例) 中村元 1968 『インド思想史』岩波書店。

(5)研究の過程で参照した文献であっても、本文で言及していない文献はあげる必要はありません。また辞書・事典類も不要です。ただし、辞書類であっても、その記述に批判的な検討を加えたり、あらたな説を提示する場合などは別です。

(6)サンスクリットやチベット語、漢文資料などの一次文献をあげる場合、研究書や翻訳などの二次文献とは別にすることもあります。その場合、文献のタイトルをはじめにあげて、それにしたがって並べるとよいでしょう。

(7)叢書、シリーズ、特定の雑誌などには略号を用いることがあります。その場合、使用した略号をまとめて示した「略号表」が必要です。本文の冒頭(目次と第一章のあいだ)か、参考文献の前に置くのが適当でしょう。仏教学の分野でよく用いられる略号に、たとえば以下のようなものがあります。

大正蔵:大正新脩大蔵経
東北No.(Toh. No.):デルゲ版チベット大蔵経 東北目録の番号
北京版No.:北京版チベット大蔵経 大谷目録の番号
『印仏研』:『印度学仏教学研究』
PTS: Pali Text Soceity

パーリ語の仏典にはすでに定着した固有の略号があります(たとえばSn: Suttanipaata; Th: Theragaataaなど)。A Critical Pali Dictionary (Copenhagen) にしたがえばよいでしょう。

6. パソコンを使用する場合の注意

(1)パソコンを用いる場合も、原稿用紙の規定がほぼ適用されます。原稿用紙の1マスが全角1文字、半角2文字に相当します。

(2)文字の大きさが指定できる機種の場合、9ポイントから12ポイント程度が適当でしょう。極端に大きい文字や小さい文字は、読む側に悪い印象を与えます。

(3)とくに規定にはありませんが、上下左右の余白を2ないし3センチ・メートルぐらいは作る必要があります。とくに綴じしろとなる部分には十分な余白を設定します。ページ数は横組の場合、下の余白の中央か、上の余白の右隅に、縦組みの場合は下の余白の中央か、左の余白のやや下寄りが適当でしょう。

(4)注をつける機能がある場合は利用すると便利です。その場合、手書きの論文と同じように、論文末や各章の末尾においても、本文と同じページに脚注として入れても、どちらでもかまいません。

(5)パソコンを用いると、文章が冗長になったり、くだけた表現になる傾向があります。また普通の文章ではひらがなで記述するべき語を、わざわざ難解な漢字に変換してしまうこともあります(たとえば「纏(まと)める」「所謂(いわゆる)」)。原稿用紙に書くとき以上に文章に注意を払う必要があります。

(6)装飾文字を必要以上に使うことは避けましょう。強調したいときは太字、斜体、白抜き文字などは用いず、傍線やアンダーラインを使用するのが適当です。また複数のフォントが表示できる機種でも、同一文書内は1ないし2種類のフォントで統一すべきです。文字の大きさも同様で、文字の大きさ(ポイント)が変えられる場合も、章題などの見出しを若干大きくする以外は、本文はすべて同じポイントに統一します。

(7)半角のカナや丸付きの数字も避けた方が無難です(機種やソフトがかわると別の文字になる、いわゆる文字化けのおそれがあります)。

(8)サンスクリットやチベット語をローマ字で表記するとき、ダイアクリティカル・マークを正しく加えるように注意します。プリンターで印字できない場合は、手書きでもかまいません。

(9)ダッシュ、ハイフン、音引き(日本語の長音記号)を混同しないように気を付けます。

(10)欧文の場合、ピリオド(.)、コンマ(,)、コロン(:)、セミコロン(;)などの記号の後には、必ず半角のスペースを入れます。

(11)データをFD、CD-ROM、MO、外付けHDなどにバックアップするように、つねに心がけましょう。最終的な印字の直前になって、機械の故障などで、それまでの努力が無になることもあり得ます。プリンタについても、不測の事態に備えておく必要があります。たとえば、インク・カートリッジの予備を準備しておくことや、故障したときにも使用できるものを確保しておくことなどです。

(12)文献のデータや翻訳などをはじめから入力しておくと、そのまま論文で利用できます。その他にもコンピュータの特性を生かして有効に利用すると、作業の効率化を図ることができます。

参考文献
梅棹忠夫 1969 『知的生産の技術』岩波書店。
尾川正二 1976 『原稿の書き方』(講談社現代新書)講談社。
木下是雄 1981 『理科系の作文技術』中央公論社。
斉藤 孝 1988 『学術論文の技法[第2版]』日本エディタースクール出版部。
ジバルディ、J.、W.S.アクタート編著 1990 『MLA英語論文の手引き[第3版]』(原田啓一編訳)北星堂書店。

(本稿は2000年度高野山大学仏教学科の卒論指導に際して「卒業論文の書き方」として配布された。その後、改訂を行い、金沢大学文学部比較文化コースの「比較文化セミナー」の参考資料として現在用いられている)


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