仏塔という宇宙

 ネパールの首都カトマンドゥ市には、四方に巨大な目が描かれた仏塔がいくつかある(写真1)。塔と言っても、全体は大きなお椀を伏せたような半球形をし、その上に立方体を置き、さらに傘をのせたような構造をとる。目が描かれているのは四角い部分で、遠くから見ると全体が人間のようである。
 このような仏塔の中には、半球形の部分の四方にそれぞれ異なる仏像が安置されているものがある。これらの四体の仏は仏教のコスモロジー(宇宙論)において、宇宙の四方を支配する仏たちである。そして、彼らを内包する仏塔は、宇宙全体を統括する根源的な仏とみなされる。四方に描かれた目は、この仏が宇宙全体を視野におさめる、つまり宇宙に遍在していることを表している。
 四方に四体の仏像をおさめた仏塔は、すでにインドにおいて作られていたことがわかっているが、日本の密教系の寺院にも受け継がれている。高野山の根本大塔、東寺の五重塔などがそれで、いずれも中央に根源的な仏を置き、その周囲に四体の仏を配する。インドやネパールでは外に置かれていた仏たちが、建物の内部に組み込まれた構造となっている。
 ところで、ネパールの仏塔が人体のように見えるのは偶然ではない。仏塔は一体の仏と考えられているからだ。石や木などを刻んで仏像を作ると、その完成段階で開眼供養が行われる。それと同じように、仏塔のような建造物ができたときにも完成式がある。このとき、ちょうど仏像に魂を入れるように、建造物全体が仏とみなされ、開眼の作法が行われる。内部に生命が宿ることを端的に表しているのが目なのである。
 ネパールの半球形の仏塔は、巨大な卵のようにも見える。古代インドのある創世神話では、宇宙はもともと水に浮かぶ卵であったという。内部に生命を宿し、自ら成長していく卵ほど、宇宙を表すシンボルに適したものはないかもしれない。宇宙の全体を一つの生命体とみなす考え方は、きわめて現代的だ。(2001年10月〜11月 共同通信社配信の各紙)