宗教学B:密教美術の世界
第14回 終わりにあたって
この授業では毎回、授業への質問や感想を書いてもらいましたが、未知の世界にふれることができたというものが多く見られました。この授業のテーマは「密教美術の世界」でしたが、授業で紹介してきた作品は、ほとんどの出席者の方が、はじめて見るものだったと思います。半期の授業を通して、いくらか親しみが感じられるようになったのではないでしょうか。この授業ではインドの密教美術を、具体的なイメージを通して知ることを目指していましたので、それなりの効果があったと思っています。また、インドとの比較として日本の密教美術もできるだけ紹介してきました。インドの密教美術に結びつくような作品が、身近なところにもあることに驚いた方も多かったのではないでしょうか。
この分野では「より深く見ることの難しさ」と「イメージを追うことのおもしろさ」があります。知識が増えるにしたがって、同じように見ていながら、それまで見えなかったものが見えてくるということが実感されるはずです。作品は現に存在するのですから、それを見ているという行為は同じなのですが、背景となる知識にしたがって、見えるものが違ってくるのです。最後にお話ししたように、同じ作品のスライドを何度かお見せすることがありましたが、そのたびに、別のものが見えてくることを実感することもあったのではないでしょうか。
最後にマンダラを中心にまとめたことで、いろいろなトピックがつながりを持つことに気がついたという感想もありましたが、これも私の意図したところです。大学入学前の勉強では、問題と解答が一対一で対応しているのがあたりまえだったと思いますが、学問というのはそれほど単純なものではありません。問題設定や視点を変えることで、いくらでも答えを出すことが可能です。どの答えで満足するかは、問題を見つけるわれわれ自身が決めることなのです。
この授業の科目名は「宗教学」で、副題も「仏教学」でしたが、はじめにお断りしたように、宗教学入門や仏教学概説という内容ではなく、密教美術といういささか特殊なテーマで講義をしました。これは私の専門分野でもあるのですが、教科書的な概論よりも、専門性の高いテーマから、学問の魅力を知っていただきたかったからです。最後の授業のまとめで示した二つの大きな問題、すなわち「聖なるもののイメージ」と「世界とは何か」は、そのような意図から出されたものです。これらの問題は、美術の分野よりも、宗教や思想、哲学など、人間の存在そのものを扱う学問にかかわります。そして、そのことを自覚してもらえるように、いくつかの問題を提起しました。たとえば、対象をありのままに表現するとはどういうことか、対象に最もふさわしい表現方法は何か、さらには、世界とはどのようなイメージでとらえられるか、「私」とは、生命とは・・・などです。
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授業では出席の確認もかねて、質問や感想を出してもらいました。自分や他の人の感想などを読んだり、それへのコメントを読むのを楽しみにしていた方も多かったようです。とくに、自分の質問が載るとうれしいという感想を、複数の人から聞きました。毎年のことですが、全般的に質問の内容も回をおうごとにレベルが上がっていきました。大学の授業でも教養教育の講義は、ほとんど一方通行で終わってしまうのですが、これによっていくらかは双方向のコミュニケーションができたと思っています。書いてもらった質問や感想をできるだけ紹介したかったのですが、10人程度が限界でした(それでも2時間は費やします)。出席者数がだいたい90人前後だったので、倍率はおよそ9倍となり、紹介できなかったものも多かったのですが、かならずすべて読んで、できるだけ授業に反映させるようにしていましたので、ご了承ください。
学期途中の宿題の提出では、WebClassを利用しましたが、私自身、今期からの試みのため、いろいろ不都合なことがあったと思います。とくに、再度ログインしたときに、以前入力したデータが現れないため、不安に思ったり、予想以上に時間を浪費した方も多かったようです。この点は申し訳なく思っています。Webを使った課題提出や小テストはこれから増えていくことが予想されますが、関係者と協力して、改善を進めていきたいと考えています。
「密教美術の世界は奥が深い」という感想をこれまでもよく見ましたし、今回も数多くありました。たしかにそのとおりです。しかし、学問というのはすべて「奥が深い」ものですし、「底が浅い」ような学問は、まだ掘り下げ方が不十分なのです。むしろ、どのような点について「奥が深い」のか、どことどこがつながることによって、「奥が深い」と感じるのかを、さらに考えてほしいと思います。実際、この授業は教養の授業なので、じつはそれほど立ち入った議論や、いろいろな考え方は紹介しませんでした。これらについては、学部や大学院の授業で取り上げています。私の所属学部である文学部や、他の文科系学部の方は授業などを通じて、またお話しする機会もあるでしょう。それ以外の学部の人も、本や出版物などで、これからも接する機会があればと願っています。インドや仏教美術などについて知りたいことがあれば、メールなどでの質問も歓迎します。また、私のホームページでも、インドを中心とした宗教図像の写真を、随時、拡充して行くつもりです。ときどきのぞいてみて下さい。
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